芸術夜話
明治の終わりから大正にかけて東京・新宿三丁目の中村屋は、主人の相馬愛蔵、黒光(良)夫婦を中心に芸術家やロシア文学者、演劇関係者たちのサロンだった。
そに罪集まるパリやニューヨーク帰りの芸術家たち、荻原守衛(條山)、柳敬助、戸張孤雁、斎藤与里、高村光太郎たちや、緑山を慕ってやってくる中原悌二郎、中村つね、鶴田吾郎らがサロンの常連だった。
女主人良は、そこで語られる文学や芸術論を、目を輝かせて聞き入り、それに助言や援助を惜しまなかった。
三歳年上の良を激しく恋した緑山は三十一歳の若さで血を吐いて謎の死をとげた。
一ヵ月前に完成した彫刻「女」は、彼の命の燃焼の極限の作品であり、それは、まぎれもなく満たされない恋の相手、良の姿だった。
中村つねは良の長女俊子をモデルにして「小女」を描いた。
ルノアールの少女のようにあどけない俊子を彼は好きだったが、俊子はインド独立の志士ラス・ビハリ・ボース氏と結婚してしまう。